全てが起こった後のおとぎ話 [日常]


ソネブロのIDとパスワードを思い出した株です。お久しぶりです。
これでniceを押しに行けます…!!

先程企画のコメント返信しました!遅くなってすみません;;


今回は、いつか書きたいと思っていたうちの子の物語。拙い文章と挿絵(写真に加筆)です。


宮沢賢治さんの銀河鉄道の夜をオマージュしてますので、そういったものが苦手な方はご注意下さい。




1

ある日、ロブは飼い主の部屋の本を見ていた。
相変わらず分類もされずに積み重なってる本たちは、ロブとしては救ってあげたい気持ちになるが、あまり場所を動かすのはどうかと思い(ツクバなら有無を言わずに整理しそうだが)これはこれで宝探しのようで面白いとプラスに考えるようにしている。

きちんとした赤い布のカバーがかかった本が目に入る。カバーは立派だが、本自体は何度も読まれたような古さがあった。
ロブはその本をもって椅子に座った。ギシギシと音がなる椅子だが、落ち着いて本を読むのにはうってつけなロブの特等席である。




2

顔を上げると、列車に乗っていた。何を突然、と思うだろうが、それを一番感じていたのはロブ自身であった。
自分がどこにいたかは覚えていなかったが、少なくとも島か家か、外であったとしてもこのような列車には乗ったことがなかった。

しかも窓に広がるのは、一言でいうのなら異世界であった。こんな光景、夢かファンタジーの世界でしかありえないだろう。

窓から目を離すと、前方座席に赤い(鮮やかな、ロブと似た色だ)クンパと思わしき角の生えた女性が座っていた。
目元には包帯を巻いていて、服装は伸縮性のあるバストまでの服と短パン、その上から大きめの白衣のようなものを着ていた。
髪はセンター分けで、肩までの髪の毛先はパーマがかかっていた。

ロブは見た瞬間にツムグに似ていると思った。
雰囲気と服装からだからだろうか、思わず「ツムグさん…?」と声をかける。

「ん?そこに誰かいるのか?」

声や口調を聞き、ますますツムグらしいと思いながらロブはなんと続けようかと困っていた。

「えっと…ロブです。分かりますか?」

「ロブ?」

思ってもない反応だった。ツムグに似ている女性は突然立ち上がりロブの手を握った。

「ロブ!ロブなのか!あぁ、これはなんて奇跡なんだろうな!こんなところで会えて、話すことが出来るだなんて!」

「ツムグさんですか?」

「お?…あぁ!そうだ、私はそいつで間違いないぞ!」

少し違和感を覚えながらも、ロブはこの不思議な世界で知っている人に会えたというそれだけで、少し安堵した。


彼女はツムグさんと同じように目が見えないらしい。包帯は飼い主にもらったのだと嬉しそうに話していた。
この列車には大分前から乗っていて、本人曰く詳しいらしいのだが、この列車が何なのかは聞いてもイマイチ掴むことが出来なかった。
(自分がどこから乗ったのか分からない、と言ったら。この列車に乗るものは大体そんなものだと返された)

明確な答えが期待できないと悟り、列車について質問するのをやめた。
ロブは外の景色を眺めている。のんびりとした列車の動きに合わせて世界も少しずつ移動していた。


「今はどこを走っているんだ?」

ぺたぺたと窓に手を張り付かせながら眺めていたツムグは、ロブにそう聞いた。

見えない彼女にどうやって伝えるのが一番だろうか、とロブもじっと世界を眺める。
外はずっと夜だ。今は星は出ていないが、少し下を眺めると星屑で出来たような高い谷が連なり、あちこちから光を落としていた。
銀河がそのまま地面に落ちたかのようだった。

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「下を見てください。青碧の谷です。星を落としたように光っていて夜なのに朝日がさしてるかのように谷から光がもれています」

色を言ったのは間違いだったかな、と言い終わってから考えたが、それを後悔させる暇を与えさせずに返事がきた。

「そうなのか、いいな光に満ちているのは。それがお前の世界だ!」

何を突然、と目をぱちくりさせたが目の前の人物は楽しそうに笑っている。

「この風景は見ている者によって違う。私はずっといるからな。そういったことも分かってくる」

また窓に視線を移したが、世界は永遠に続くのではないかと思えるような谷であった。空には本で見たような星座はなくやはり全て落っこちているのだ。


「もしこれが僕の世界なら、ツムグさんの世界は」

「もちろん、お前が見ている世界が私の世界になる。私の世界は人から聞いて全てで構成される。見えてる世界がその人の世界なら、見えてない私の世界は私で作るしかない。だから私は何にも縛られないんだ」


例えるなら酷く自由であると、ロブは思った。悲しいこととも、羨ましいこととも思わなかった。ただ少し胸が傷んだ。





3

どれぐらい進んだだろうか、風景は移り変わり次は絵に描いたような立派な雲が夜空を漂っている。
雲は蛍のようにぺかぺかと発光しており、黄色から緑への明るいグラデーションをかける。
下にあった谷は姿を消し、正しい夜の世界が広がっていた。

58-9-2.jpg

未だに駅につくことはなく、一定のペースでガタンゴトンと時を刻む。

そうだ、駅にはついていない。
しかしふと隣を見た時、見慣れない男が一人反対側の窓際に座り込んでいた。

思わず「えっ」と声が出た。ツムグは興味深々にどうしたと聞いてくるがこんな目の前で言うのはどうかととお茶を濁す。

ロブが驚いたのは無理もない。その男は真っ黒なビズーで、髪は肩にあたる程度の長さでとても外にはねていた。外部から何か攻撃を受けたようなボロボロな着流しを着ており、明らかに疲労が感じ取れるが整った顔立ちをしていた。
単刀直入に言うと、ツクバによく似ていた。髪の色と服の一部を除けば、その人そのものと言ってもいいほどであった。

そのツクバによく似た人物は、ぐったりと足元を見て動く様子がなかった。

「あぁ、もしかして誰か乗ってきたのか?よくあることだぞこれは列車だ、当然客は来る」

「そうなんですか…?」

記憶を探ってもこの列車は止まっておらず、もちろん駅に止まっていたとは思えなかったのでロブは納得できないような気持ちだった。
(でも僕だってどこかの駅から乗った覚えはないし…)


「…ここは」

少し考えてながら下を向いていると、その男が疲れきったようにそう呟いた。しかし、視線をこちらに向けている訳ではなく宙に聞いているようであった。
「おぉ!」とツムグは声の方向からその人物の居場所を理解できたのか、そちらを向いて嬉しそうに微笑んだ。

「初めましてだな、私は…ん、何だ?ロブ、私のことをを何て呼んだ?」

予想外の質問に、またロブは変な声が出てしまった。一拍あけて「ツムグさんです」と言うと、気を取り直して!と彼女は自己紹介を続けた。
ついでロブもおずおずとそのツクバによく似た男に名乗った。

「私は罪を犯した。ここが罪を償う場所だとするなら、あなた方も被害者かもしれない」

「こちらは名乗ったというのに、どういった切り返し方だ?お前がどんな罪を背負っていたとしても、私達は知らない。ここは罪を償う場所ではないが、罪というのが存在しない場所だ。安心していい」

声を聞き、ますますツグバと同じだとロブは思った。そういった言葉を呑み込んで、じっと人物の様子を伺った。

「罪がない場所。というのはどういうことだ」

「この場所には三人しかいない。お前の罪に関わった奴がいない世界で、果たしてそれは罪と言えるのかという話だ」

そうだ、ここには三人しかいないのだ。ここで過ごした時間しかないのだ。いくらでも、変わることができる。
ロブもツムグもこの男のことを知らない。知らない罪を責めることも、救うこともできない。
いつだって誰かの話に耳を傾け同情するが、語られるまでそのことを知ることはないのだ。

「戻らなければいけない」

男は我に帰ったように口を開いた。

「私は、こんなところにいてはいけない。いや、いたくない。私が私を保つためには、罪は存在しなければならない」

「真面目なやつだ、あいつによく似ている」

ツムグは不思議そうに、そして懐かしそうに微笑んだ。
その後すぐに「あいつって誰だ」と困った質問が降ってきたが、「ツムグさんの近くにいた人です」と適当な返事を返してしまったのがロブ自身分からなかった。



その後、少しの間沈黙を乗せて列車は走っていた。
ロブは外を眺めていたが、相変わらず美しい緑の世界だ。

ツムグは何度も何度も、どんな風景が見えているのか聞いてきた。ロブはその度に説明していたので、この緑の世界について知らないものは何もないというような気分にすらなっていた。
何分かおきに、流れ星が落ちる。その数はいつも違って一つの時は数百も連なって落ちてくることもある。
光が奥の方からさして、正しい夜の世界が崩れると、途端に入道雲のような巨大な雲がもくもくと世界を覆う、その隙間から見える光がより一層輝きを誇張させていた。

そんな時、スッとその男が立ち上がった。

何を思ったか窓を開けると、今にも飛び出そうとするように桟に足をかけたのだ。

「ツクバさん!!」

ロブは思わず声が出た。その名が男のものかも分からなかったが、ただ必死であった。

「おぉ、風が通るなそっちの窓を開けたのか。なぁ!何が見える!」

状況が分からないツムグは、嬉しそうに訪ねた。あべこべな二人の言葉にその男は振り返りもしなかった。


「黄色の光と、青い光が見えます。ここにいる貴方がたにとっては何も変哲のない光でしょう。」

「そんなことはない!」ロブは思った。同時にそのことをツムグが口に出した。

「私は知っているぞ、この世界は今緑の世界なんだ。流れ星と雲が美しい世界だ。ここに黄色と青の光はない!」


「…そうですか、なら私しか分からない世界ですね。何か一つの特別があれば、あの光があれば、それを道しるべに出来るでしょう」


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一回の瞬き、それだけでその男は消えた。最後までこちらを振り返ることはなかった。





4

この列車はどこに向かうのだろう、最初の疑問に戻っていた。
ツムグはツクバがいなくなったことに悲しむことなく、とても満足げにその空席の眺めるばかりだった。
開けっ放しの窓の先の黄色の光と、青い光を思ったが、ロブにはやはり緑の世界だった。


「この列車の終点では、降りてはいけない」

思い出したようにツムグが口にした。

「終点があるんですか?」

「そう思えば、認めてしまえば終点となってしまう場所がある。私は何度もそこを通過した。何人も、何人も降りていった。ロブ、お前は降りてはいけない。これはお前が起こしてくれた魔法だ。私はずっと話したかったんだ、その願いを叶えてくれた魔法だ。本当に嬉しい。だからこそ、覚めなければならない」

「この世界は、僕のツムグさんの二人だけの世界ではないのですか?」

「あぁ、今はそうだ。世界というのは沢山ある。お前にとっての今は、魔法で出来ているんだ。なんたって私もお前も錬金術で出来ているからな。奇跡の力はお手の物だろう」

「なら、ツムグさんも」

「私は…」

ツムグは悩むように俯いた。ロブはそれ以上何も言えなかった。ズドンと胸に何か重いものがのしかかったような気持ちになった。
その肩にそっと触れようとしたが、すり抜けてしまうのが怖く、その手は宙をかいた。
知り合ったばかりの彼女に、無二の親友がいなくなるかのような恐怖を覚えた。ロブは彼女をツムグと呼んだが、実際彼女はマダラカガではなくクンパなのだ。違う人物であるはずである。
そう思い込んだら、胸の苦しみが楽になるかと思ったが、更に焦るばかりであった。

何故彼女がツムグとなるのだろう。




窓を開けた。包帯の隙間から世界を覗くように顔を出す。
邪魔だとでもいうように、乱暴にその包帯を片手で解き、投げ出す。見えない目で真っ直ぐにその世界を見ていた。
両目の焦点があってなく、光すら反射していない。だけど間違いなく綺麗な目だった。隠すのが勿体ないぐらい、輝かしいものだった。

「赤…」

ツムグは呟いた。喜々としてこちらを振り返る。

「赤、赤の世界だ!私の色だ!!なぁロブ、やっと見ることが出来たぞ!ほら見てくれ!あそこに雲が!黄色の光はきっと星が集まっているんだな!海の色もあるぞ!あれはあいつの色か?導いてくれるのか?嬉しいなぁ」

ロブは目を凝らしてツムグのいう世界を見ようとしていた。しかし、何度見ても赤は映らなかった。
もうツムグもロブの世界が分からなくなっているだろう。

「あぁ!最後にみる私の色だ!少ししたらきっともう赤は私の色ではなくなっている。しっかり覚えておかないと」

ツムグは飛び出そうとするのを何度も抑えるように、窓から広がる世界を目に焼き付けていた。
ロブは、そこでやっと胸の重みの理由に気が付いた。

「ツムグさん。戻って下さい。危ないです。」

わざとらしいセリフであった。その言葉に、ツムグはゆっくりと振り返る。

「ロブ、私はもう行くよ。もうお前の世界は見えなくなってしまった。私はお前ではないんだ。きっとずっと、勝手に縛られていたんだな。」

「何を言ってるんですか?ほら、こっちに…」

腕を掴んだ、つもりだった。全く何も掴めずに腕の位置は元に収まった。
列車はスピードをあげ始めた。そろそろ終点かもしれない。ロブは胸の苦しみをどうしていいのか分からなかった。
緑の世界では、流星が止まない。

「伝言を頼む。あいつに、私の無二の親友に伝えてくれ」



「ありがとう」



緑の世界では、流星が止まない。





列車はいよいよ、突撃するような速さだ。
ロブは立っていられなくなって、椅子に叩きつけられた。痛いからではなく、涙が溢れた。
伝えなければならない、ただそれだけは何があっても忘れないと決めた。この世界は一時の魔法であったとしても、忘れないと決めた。

緑の世界は真っ白になっていた。流星は進行方向から降ってくる。

ガタンという大きな音と共に、列車は宙へと投げ出された。




5

一瞬の空白。


次に、ロブが目を覚ました時。音が消えていた。
窓の外からも、色が消えていた。
世界は真っ白へと変わっていた。


「あなたは、誰?」

窓から目を離すと、ツムグがいたはずの前方座席に赤紫のマダラカガと思わしき角の生えた和服の少女が座っていた。
見覚えのある、三角形を切り抜いたような前髪。大きい目は長い下を向きの睫毛の為に影が入っている。

「…僕はロブ。君は?」

「私は…私は、まだ生まれてないから…わからない」

不安そうに、彼女は言った。ロブは彼女の不安が杞憂だというのを知っているような気がした。

「君に会ったことがある。大丈夫。君はとてもいい子だから、そのせいで落ち込むこともあったけど、今となっては沢山の人に囲まれて、大切な人も出来て幸せに暮らしているよ」

「…ほんとう…?」

「本当だよ、だって僕は」

その続きを言おうと思ったら、突然体の自由がきかなくなった。
霞む視界に映る彼女に、何度も大丈夫だと言おうと口を動かしたが、ついには何も見えなくなった。


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真っ白な世界が姿を滲ませ、ノイズの先の一瞬にロブの赤の世界が見えた気がした。






6

目を覚ました。とても長い時間寝ていた気がする。頭をあげると雫が机に落ちた。
飼い主の物が乱雑に置かれた部屋が、霞んで見えた。

その雫を拭き取っても、何度も何度も落ちてきて、ロブは不思議でたまらない気持ちだった。
ふと、机に置かれた本に目をやった。
そういえば、本を読もうとしていたのだと、ふと思い出す。


『銀河鉄道の夜』


今度はしっかりと涙を拭き、宝物を扱うようにそっとページをめくり始めた。





END





反転であとがきのような

擬リヴというのは擬人している時点で創作が混じっています。
創作というのは、キャラというのは物語というのが少なからず存在していると思います。
いつか何かしらの形にしたいと思っていましたが、漫画は描けないし、文章能力もない。何より長い。
そんな時に、サン=テグジュペリの星の王子様にを読み、挿絵のあるおとぎ話として書いたらいいのではないのかと思い、制作しました。
世界観は宮沢賢治さんの銀河鉄道の夜をオマージュしています。

列車に乗れるはずのない、現実世界を生きていたロブが、時間を遡って彼女に会いに行きました。
既に起こってきた事柄を、列車側から見た話になります。
これから『銀河鉄道の夜』を読み、その事柄と向かい合っていくところです。
物語は続きますが、このおとぎ話はここでおしまい。


ありがとうございました。





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